「腐界に眠る王女のアバドーン」回想もコンプリートしたので、考察をしてみるかと思い立っていろいろ考えてはみたが、どうにも正解にたどり着いたという気がしない。なんだか判然としないところが数か所ある。
それでも自分なりに考えた結果を書いてみる。
ここから下は全部ネタバレなので注意。
前提:登場人物の名前の表記
アバドーンでは、綾小路家の人物は名前をカタカナ(ユキ、ミズキ)で、その他の人物は名前をひらがなで表記されている。
この使い分けが重要になってくるのが、ほむらとホムラ。
綾小路家の息子・ユキの双子の焔は「ホムラ」、主人公・山之辺焔は「ほむら」で表記が統一されている。
この記事でもその表記に従う。
時系列の整理
アバドーンの物語はややこしい構造をしていて時系列がはっきりしない。起きた出来事を順に整理すると、おそらくこうなる。
- 空から男の子が降ってくる(ホムラ=承継?)
- 空から女の子が降ってくる(ミズキ?)
- ミズキがユキを突き落とす
- ユキが何事もなかったように帰ってくる
- 綾小路が病院でほむらを見つけ、ホムラだと思い込む
- 物語本編へ
承継が語る「綾小路一家に起きた出来事」の解釈
山之辺編で承継が語っている綾小路家の出来事は、
- 子どものひとりが、館の中で神隠しに遭う
- 今度は別の子が自殺
- それを追うように母親も死んだ
なのだが、これはおそらく、神隠しに遭ったのはホムラ、自殺と言われているのはミズキ、追うように死んだ母親は綾小路妻ではないかと思う。(ユキは「何事もなかったように帰って来た」ので語られていない?)
というのも、「形見の服」は神隠しに遭った子の服なのだが、
終盤で取り上げられるイベント(しまのイベント後確認)で、以下のような台詞が表示される。
一人称からおそらくホムラのものではなかろうかと思う。
綾小路が「あるオトコのしゅき」で書いている行方不明の子もホムラだと思われるので、神隠し=ホムラで良いかと思う。
(が、「かくれんぼしたまま消えた」のが本当なら綾小路家の人物ではない可能性もあるかもしれない)
恐怖の存在はいつ生まれたのか?
ユキルートのトゥルーエンドでは、ミズキが「恐怖の存在」となるシーンが描かれる。
ではミズキはそのシーンで恐怖の存在となったのだろうか。
ユキはトゥルーエンド(ユキルート以外)で主人公たちと対峙した際、腐界の王女になる前にほむらに語りかけてくるが、その中で「(ミズキが)なんでああなったか もう忘れちゃったんでしょう?」という台詞がある。
ユキは過去も未来も知っているらしいが、この時点でユキルートは解放されていない場合もあり、ほむらに対して「忘れちゃったんでしょう?」という問いかけはおかしい。未来の出来事だからである。
ホムラならユキと同様に未来の記憶もあるということだろうか……?
それとも、ユキとホムラが共謀してミズキを呪ったシーンが過去にあったのだろうか。そうだとすればユキルートトゥルーエンドのシーンは過去の追体験ということになると思う。
承継はホムラなのか
承継がホムラなのかどうかについては解釈がわかれているようだが、ぼくは承継=ホムラだと思っている。
理由は承継にはホムラの記憶を取り戻すシーンが多数描かれているが、ほむらがホムラの記憶を取り戻すシーンは存在しないからだ。
ほむらも母親のような女性(ミズキ)に「もうひとりの ほむら」と語りかけられる。ホムラではなく「ほむら」なのである。
承継がホムラとしての力を失っている点は、息子に力が受け継がれてしまい、本人の力はなくなってしまったと解釈するのが正当と思われる。ホムラの記憶を持たないほむらが扉だけは開けられるのは、力だけを受け継いだせいだと思われる。
一方、承継もネクロノミカンでいろいろなことができるため、全く無力というわけでもなさそうである。(通用しなかったりもするので、力が弱まっているということかもしれない)
ユキルートの描写について
ほむらが唯一、ホムラの記憶を取り戻したかのように見えるシーンがユキルートのトゥルーエンドなのだが、あれもよく見ると違うように思う。
というのもユキはほむらに瞳を覗かせているし、そのときにミズキが「見ちゃダメ」と必死に止めている。必死になった理由は父親がそうやって狂わされたからだと思われる。
ミズキはホムラの記憶を「預かっている」ので、ほむらをホムラだと思い込んで記憶を“返した”のかと思う。
またそのシーンで名前が「ほむら」ではなく「ホムラ」と表記されるようになるのが混乱の元なのだが、承継(ホムラ)から力を受け継ぎ、記憶もホムラとなったほむら=ホムラ、ということなのかと思う。
ユキの「うそつき」の後の台詞
トゥルーエンドで承継はユキに「おまえの兄はワシじゃ」と告白する。だが、扉が開かないことでユキは「うそつき」と言い放つ。
その後、ネクロノミカン文字でユキの台詞があるが、「ちからのないおにいちゃんなんて ユキのおにいちゃんじゃない」と書かれている。否定材料はそれだけなのである。ユキが信じたくないだけであり、事実かどうかは判然としない。
また、同じエンドでユキはスタッフロール中の語りで「最後にお兄ちゃん ユキのこと抱き締めてくれたから」と言うが、ほむらが抱き締めた描写はない。承継が抱き締めた描写はある(「兄はワシじゃ」と言ったシーン)。
ユキは承継をホムラと認識しながら、力を持つほむらをホムラに仕立て上げようとしているのだろうか?
「空から降ってきた男の子」
館の中に落ちている紙で、西館ルートでは「空から降ってきた女の子」、東館ルートでは「空から降ってきた男の子」の話が読める。
「空から降ってきた女の子」では、「過去にも同様の事例が報告されている」とある。また「空から降ってきた女の子」はミズキと思われる。(綾小路妻は死産だが、ミズキは綾小路家の娘として育っているため)
そのため、ミズキよりも年上の“男の子”が存在していたことがわかる。ミズキが空から降ってきたのはループによる時間移動のためと思われるので、男の子も時間移動をしたものと思われ、おそらくはホムラである。(いつの時点から時間移動をしたのか不明だが)
綾小路が見つけた息子
「あるオトコのしゅき 4/5」では綾小路が息子を見つけたという記述がある。
「息子を奪ったあの男」とは承継であると思われる。綾小路は病院でほむらを見たときに、「承継がホムラを誘拐したためホムラが行方不明となった」と思い込んだと思われる。
しかしながら、ホムラがほむらなら15年経っているのに、外見はあの日のまま(行方不明となった当時と変わらない)ともある。
これがホムラが15年後に移動しほむらとなったという意味かと初期は思っていた。が、たぶん違う。ほむらとホムラの容姿が酷似しているという意味だと思う。
腐界の王女戦で一人かばって一人殺された場合、特殊なエンディングとなるが、そこで出てくる人物はほむらと思われる。そのエンディングで言いたいこともほむら=ホムラではなく、承継とほむらが非常によく似ているという意味なのだと思う。
わざと曖昧に描かれている?
以上のさまざまな理由でぼくは承継=ホムラ、ほむら≠ホムラと思っているが、ほむら=ホムラとも解釈できるようにわざと曖昧に描かれている部分もあるように思う。
ほむらは過去に交通事故に遭っており、前後の記憶が曖昧である。事故前の思い出も未亜が持ち合わせているため、承継の息子のほむらは確かに存在する人物だと思われる。
が、事故の際にいつかの時間軸からやってきたホムラがほむらと入れ替わったという可能性も否定はできないと思う。
それでもほむらはホムラの記憶を自発的に取り戻すことは無いし、ユキのことを知っているという描写でも「記憶でじゃない」としっかり否定しているため、受け継いだ能力のせいでユキを知っている気がしているというだけではなかろうか。
結論:救いの無い物語
ユキに着目すると、この物語は救いが無い。
強いて言えば、未亜の妊娠エンドが一番ハッピーエンドに近いのだろうか?(ネクロノミカン文字を解読すると……)
ユキは「物語は終わらないよ」と何度もループを繰り返すが、ユキの望む終わりと思われるユキルートのトゥルーエンドでもほむらは本当のホムラではないと思われる。
だが力を持ち、記憶を返したなら、ユキにとってはホムラなのだろうか。
開発中の続編で何か新事実がわかったりするのだろうかなあ。
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